接客の仕事をしていると、日々さまざまなお客さまと出会う。その一つひとつが思いがけない物語となり、時には忘れがたい思い出となることもある。お客さまと言葉を交わし、笑顔を見せてもらった瞬間、ふと心が温かくなることがあるのではないだろうか。
今回は、アルバイトやパートを経験した方々が印象に残っているお客さまについてのエピソードを紹介する。ユーモアにあふれる人、不思議な行動をする人、そして心にじんわりと沁みるようなやり取りを交わした人――。
そんな一期一会の出会いの数々を、少し覗いてみよう。
ユーモアあふれるお客さまたち
お化け屋敷で見せた、最高のリアクション
お化け屋敷でアルバイトをしていたときに出会ったのは、見るからに強面のヤンキー集団。正直、どんな反応をするのか少し身構えていた。ところが、彼らは驚くたびに豪快な悲鳴を上げ、「まだ何かあんのかよ~!」と叫びながら先へ進んでいく。出口にたどり着くころには震えた声で「面白かった~!」と感想を残し、すっかり満喫した様子だった。
怖がるお客さまを見るのはお化け屋敷スタッフの醍醐味の一つ。しかし、ここまで素直にリアクションをしてくれると、演じる側も思わず笑みがこぼれてしまう。
「クソマズイから飲んでみて!」の衝撃
コンビニの夜勤中、あるお客さまが突然「これクソマズイから飲んでみて!」と、お酒を差し出してきた。恐る恐る一口飲んでみると、意外にもそこまでひどい味ではない。思わず「そこまでじゃないですね」と返すと、「そうかぁ」と満足げな表情を浮かべ、そのまま立ち去っていった。
日常の中に突如現れる、ちょっとした不可解なやり取り。こうした出来事が、接客の仕事にスパイスを加えてくれるのかもしれない。
心温まるお客さまとの出会い
「これ、ごちそうさまでした」――チャーハンおじいちゃんの話
居酒屋のアルバイトをしていた時のこと。毎日決まってチャーハンを5回買いに来るおじいちゃんがいた。昼間に来ても夜に来ても、注文するのは決まってチャーハン。そしてある日、いつものようにお店を訪れたおじいちゃんが、手に持っていたラーメンの器を差し出しながら言った。
「これ、ごちそうさまでした」
それは、店で出したものではないラーメンの器。思わず言葉を失ったが、同時に笑いがこみ上げてきた。おじいちゃんの中では、この店のチャーハンが日常の一部になっていたのかもしれない。
しかし、ある日を境におじいちゃんの姿を見かけなくなった。ふとした時に思い出しては、元気に過ごしていることを願わずにはいられない。
心に沁みるお別れ――常連さんとの最後のやり取り
接客業をしていると、常連のお客さまと自然と親しくなることもある。あるスタッフは、以前対応した際のことをよく覚えてくれていたお客さまと仲良くなり、訪れるたびにお菓子や果物をもらうようになったという。
そんな関係が続いたある日、スタッフが退職することを伝えたところ、お客さまの表情が曇った。そして、次に訪れた時、その手には大きなメロンが握られていた。
「今までありがとう」
その一言に、これまでの時間の積み重ねが感じられ、接客中にも関わらず涙がこぼれた。仕事の枠を超えた温かい交流が生まれることもあるのが、接客の魅力なのかもしれない。
ちょっと不思議な行動をするお客さま
アルコール消毒マニア
試食販売のアルバイトをしていた時、市内のどのスーパーにも必ず現れるおじさんがいた。いつも全身が濡れているので汗かと思いきや、警備員によると「入口の消毒用アルコールを全身に浴びせかけている」とのこと。さらに、消毒液が固定されていない店舗では、外に持ち出して自転車にまでかけていたという。
潔癖なのか、それとも別の目的があるのか――。世の中にはいろんな人がいるものだ。
午前3時に少年ジャンプを買いに来る小学生
コンビニで働いていた時、毎週月曜の午前3時、決まって少年ジャンプを買いに来る小学生がいた。雨の日も風の日も、必ずやってくる。
それほどまでに早く読みたいという情熱には驚かされるが、それ以上に「この時間に小学生がいること」に対しての疑問が湧く。しかし、彼にとっては週に一度の特別な時間だったのかもしれない。
まとめ
接客業は、ただ商品を提供するだけではない。そこには、人と人との触れ合いがあり、時に驚き、笑い、そして心が温まる瞬間が訪れる。
お化け屋敷で豪快に驚いてくれるヤンキー、試食販売のアルコールおじさん、毎日チャーハンを買い続けたおじいちゃん、そして退職時にメロンをくれた常連さん――。どのエピソードも、日常の中に散りばめられた小さなドラマのようだ。
今日もまた、どこかの店で新たな出会いが生まれていることだろう。そして、その一つひとつが、誰かの心の中に、特別な記憶として残っていくのかもしれない。